「蛍」作詞:稲垣千穎(ちかい) (明治唱歌集、1881)
蛍の光 窓の雪
書を(ふみ)読む月日 重ねつつ
いつしか年も 杉の戸を
明けてぞ今朝は 別れ行く
止まるも行くも 限りとて
かたみに思う 千万(ちよろず)の
心のはしを ひとことに
さきくとばかり うたうなり
筑紫のきわみ みちの奥
海山遠く 隔つとも
その真心は 隔てなく
ひとつに尽くせ 国のため
千島の奥も 沖縄も
八島のうちの 守りなり
至らぬ国に 勲(いさお)しく
つとめよわが背 つつがなく
初めて日本に入ってきたスコットランド民謡のひとつです。「朝日は昇りて世を照らせり」で始まる賛美歌の歌詞もあり、宣教師がもたらしたという説もありますが、「蛍の光」として正式に教科書に載ったのは明治14(1881)年のことです。学校の卒業式で歌われだしたのはいつのころからかはっきりしませんが、この歌詞を見る限り、1、2番はともかく、けっして卒業生を送り出す歌ではありませんね。大意は次のとおりです。書を読み努力を重ねてきて、平和な時代であれば心行くまで好きな学問に打ち込めたはずの若い夫が徴兵され、突如別れて行くことになりました。思いは尽きないけど、ただただご無事でと願うばかりです。任地は九州になるか東北になるか、はたまた、もっと遠い千島になるか沖縄になるか分かりませんが、国のために一心に働いてくださいませ。わが背とは、もちろん夫のことです。当時の国際情勢、日本のおかれていた立場などがうかがえる内容になっています。
ロバート・バーンズが書いたといわれるもとの歌詞は、久しぶりに再会した友とその喜びを分かち合い、昔を懐かしみながら、祝杯をあげようというものですから、まったく別の意味ですね。
話しは少し変わりますが、スコットランドには世界一がたくさんあります。世界一の都はエディンバラ、世界一のお城はエディンバラ城、世界一の山はベン・ネヴィス、世界一の風景はエティーヴ湖、世界一の国はスコットランド、世界一の民族はスコットランド人、さらに世界一の水、これで造るスコッチ・ウィスキーは当然世界一のお酒です。さらに、世界一の愛国心、世界一の帰属意識、このように数え上げて行くと際限がありません。しかし、こういった意識が持てるスコットランドの人たちはある意味でとても幸せだと思いますね。当然、世界一の詩人はロバート・バーンズですが、世界一愛され、世界一多くの人に歌われた歌は、このAuld Lang Syneだと聞かされた時には、妙に納得したものです。文字どおり世界中の言葉で歌われ、韓国では愛国歌に、モルディヴ共和国ではかつて国歌になっていたほどですから。
では最後に原詩の意味を書いておきましょう。
なつかしい昔(訳:三宅忠明)
昔なじみは忘れられ、
心に戻っては来ないのか。
昔なじみは忘れられ、
昔の日々とおんなじに。
繰り返し
なつかしい昔の日々のため
友情の杯を交わそうよ。
ふたりで丘を駆け回り、
綺麗なヒナギク摘んだよね。
どこまでもどこまでも彷徨って、
脚が棒みたいになったよね。
日が昇ってから、昼過ぎまで、
小川でバシャバシャやったよね。
近くで海がごうごうと、
大きな波音立ててたね。
さあ、握手だ、君の手も
しっかりと握らせておくれ。
そしてよろこびの一杯を、
たがいに酌み交わそうじゃないか。